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英語で日常生活記録

 豪腕歯科医院(その3) 

っかり麻酔が効いて、私の左頬から下は殆ど何も感じない状態になった。左目の下まぶたまで感じないので、瞬きがしにくい。先生と助手が、治療台の右と左にそれぞれ立っていた。ここの治療は立って行うらしい。一瞬ERの手術シーンが頭をよぎった。

酔は驚くほど完全に感覚を麻痺させていた。「不快な時は手を挙げて」と先生が言ったので、私は弱々しく頷いた。治療が始まった。

ず、アメリカの歯科のことでどうしても初めに言っておきたいことがある。ここの治療には「うがい」が無い。苦い薬の後も、ドリルの後も、型を取った後も、血が出たときも、うがいが無いのだ。もちろん治療台にはうがい機能が無い。あのコップつきの治療台ではないのだ。

本の治療に慣れている私には、何と言ってもこれがかなり気になってしまう。時々無性に口をすすぎたい衝動に駆られるのだ。これと比べれば治療台に土足のまま乗るのは些細な違いだ。ちなみに日系の歯科医院にはうがいがついていることが多いようだ。私が初めにかかった、通訳のいる歯科にはうがいがあった。



根端切除というのが、その手術の正式な名前だった。歯根端とは、歯茎に深くまで繋がった歯の細長い部分の事で、読んで字のごとく、根っこのように歯を支えている場所だ。もしこの場所にトラブルがある場合、治療は歯茎を切開して行う。これが総合歯科から外科に移る最大の理由のように思う。

まり克明に書くのも痛々しいので、治療中のことを中略するが、私も歯茎の下にある歯の根っこを一部取り除いた。治療中のことは、削る時の不愉快な感覚だけはしっかり覚えているが、痛みは見事に無かった。

段にある奥歯の歯茎を触るので、私は口をあける必要が無かった。唇を持ち上げる為の装置を取り付けて、私の口は「イー」と言う形にしておけばよかった。それなのに、先生の手が近づいてくると、人は自動的に口をあけてしまうものらしい。私は思わず口を開いてしまい、「Don't OPEN ! 」と先生に何度も注意されてしまった。



らで助手の人は、治療中は大忙しでバキュームと掃除を担当していた。歯茎から出血しているので、治療している患部が見えにくく、先生はしょっちゅう「Wash ! 」と指示を送っていた。そしてすぐにバキュームで吸い取る。前述のように、ここにはうがいが無いので、血液も傷口の洗浄液も唾液もすべてバキュームで吸い取らなければならないのだ。助手はかなり忙しい。

ころでこのWashの指示が出ると、私は大変だった。洗浄は勢いが良い霧吹き状のホースで、ぶしゅーっ!と噴出してくるのだ。そうすると、私の顔はもちろん、先生と助手の白衣、私のエプロンには洗浄液が飛び散る。助手の反対の手にはハンドタオル(または雑巾?)が握られていて、時々私の顔を拭ってくれた。

部は鼻の横にほど近く、片方の鼻腔がバキュームの時に吸い込まれて息苦しかった。治療中は鼻で息をしなければならないのに、鼻でさえ息が出来なかった。私は先生の手が離れた時に「バキュームの時に鼻の横が変な感じがして、息が出来ないんですが。」と訴えた。すると、先生は「鼻の横を触っているから、それが当たり前のことなんだよ」とこれまた当たり前のことを説明してくれた。ガクッ・・・

後に、傷口を4針縫って、無事に手術は終わった。一週間後に糸を抜きに来てと、先生が言った。治療費は思ったよりは高くなかった。(とはいっても決して安くは無いけれど。)当然ながら口の中はとても不快な状態だった。最後まで一度もうがい無しだったのだから当然だ。口の中は血だらけだったので、鉄の味がした。絶対に家に帰るまで唾液を飲み込まないぞと心に誓った。しかし麻酔が切れず、唇が上手く閉じない。やむを得ず、ティッシュペーパーを口に詰めた。



はフラフラの状態で駐車場に戻った。外は天気の良い夏の日で、蝉が鳴いていた。それなのに私は冷や汗をかいて、寒気がしていた。のべ1時間半の出来事なのに、あまりにも疲れて、放心状態に近かった。この24時間はとても長かったのだ。

までの経験で、この時ほど自分で運転するのが怖かったことは無かった。車のミラーで自分の顔を見て驚きつつも、あまりに酷い状態に思わず笑った。青白い顔中に血しぶきが飛んで、かさぶたのように固まっていたのだ。あのWashがいかに激しかったかが伺えた。口にティッシュを詰めて、一言も喋らず、ボーっとした頭で、必死に安全運転した。ただひたすら家に帰りたかった。

れにしてもよく自分だけで行ったものだ。帰りにこんなことになるのなら、夫と行けばよかったと後悔した。そんな私に追い討ちをかけるように、運転中、鼻血が出てきた。人間の体は不思議なもので、鼻の横と、歯茎の奥は繋がっているのだ。歯茎奥での出血は鼻腔に溜まり、鼻血となって出てきたという訳だ。弱っている心に、鼻血の出現はこたえた。手持ちのティッシュを使い果たして、なんとか家に着いた時は、救われたような気がした。ここが外国であっても、今はこの家が我が家なのだと深く感じたのだった。


               ★ひとまず今回の治療は、完了★








 
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